現在の特別養護老人ホームは、廉価な施設とは言い切れないのをご存知ですか?

自分や配偶者の親に介護が必要になることは、どのご家庭にも考えられることです。もしかしたらすでに、介護がスタートしているご家庭があるかもしれません。介護が始まってしばらくは、在宅での介護を選択するご家庭が多くなりますが、介護状態が重くなっていくにつれ、施設介護を検討するご家庭が増えていきます。
施設介護をイメージする際、多くの方の頭に浮かぶのは、「特別養護老人ホーム」、いわゆる「特養」ではないでしょうか。特養を頭に浮かべる方が多い理由は、「廉価で入所できる施設」だと捉えているからだと思います。
たしかに少し前までの特養は、廉価な施設と言えました。ですが、2015年の介護保険制度改正によって、特養をめぐる状況は変わってきています。費用面では資産基準が導入されたことで、特養は必ずしも廉価な施設とはいえなくなっているのです。そこで今回は、特養にかかる費用の変化についてご紹介します

要介護1と2の時は「どこで介護を受けるか」の検討が必要

前述の通り、2015年に介護保険制度が改正されました。その時の改正で話題になったのは、それまでは要介護1から入居申請ができていたのが、要介護3以上でないと、原則として入所申込ができなくなったこと。
特養への入所を希望したとしても、要介護1と2の場合は、入所申請すらできません。そのため要介護3と認定されるまでは、在宅介護で乗り切るか、介護付有料老人ホームなどに入所して、待機する必要が出てきています。
ここで「原則として要介護3から」と書いたのは、要介護1や2であっても、緊急性を要するなどと認められた場合は、例外として入所が認められるケースもあるからです。私が知っているケースでは、要介護2の認知症で、ひとり暮らしの方。この方は夕方以降になると徘徊がひどく、命の危険性もあることから、緊急性が認められて入所が認められました。もうおひとり。この方も認知症で要介護1でしたが、元気だった時を思い出すのか、揚げ物をしようとして、鍋に火をつけていることを忘れて何度もボヤを出し、消防車を呼ぶ機会が増えたことから、入所が認められました。
どのような介護状態になるかは誰にもわからないので、特養をイメージするのであれば、要介護1と2は、どこで介護を受けるのかを考えておく必要が出ています。

国民年金受給者でも650万円以上の資産があると“定価”になる

改正で注目すべきもうひとつの点は、今回のメインのテーマとなる「資産基準」が導入されたことです。資産基準が導入される前の特養は、どれほど多くの資産を持っていても、年金などの収入が少なければ、「補足給付」という名前の軽減措置が受けられました。
補足給付の対象になるのは、食費と居住費の2つ。食費と居住費が補足給付の対象になれば、特養の入所費用は、月額10万円を下回るのが一般的でした。ところが、2015年の介護保険制度改正によって、資産基準の要素が加わりました。年収が少なくても、資産がそれなりにある方には補足給付が適用されなくなったのです。
補足給付から外される資産額は表にある通り。単身者で500万円、550万円、650万円のいずれか。夫婦の場合で1500万円、1550万円、1650万円のいずれかを超える資産を持っているケースになります。
特養を経営している数名の方に話をうかがったところ、資産基準が導入される前は、7~9割くらいの入所者が補足給付を受けていたとのこと。ところが、現在では補足給付の対象者は半分以下になっているそうです。もちろん、特養ごとに補足給付を受けている方の割合は異なりますが、いずれにしても資産基準を超える貯蓄などがあると、国民年金のみの受給者であっても、ひと月の入所費用は10万円を超えるようになっています(ユニット型個室などの場合)。
しかも、介護保険の自己負担割合が2割の方は月額18~21万円程度、3割負担になると、月額22~25万円くらいの入所費用がかかります(いずれもユニット型個室などの場合)。男性の方で、介護保険の自己負担割合が2割の方は増えていますが、特養の負担が介護付有料老人ホームと変わらなくなっている現実をご存知の方は、まだまだ少ないのではないでしょうか。

補足給付から外される資産額

都市部を除けば、介護付有料老人ホームとの値段比較をすべき

仮に、特養に月額20万円以上の費用を支払うのであれば、別のタイプの高齢者施設と比較する必要があります。都市部を除けば、介護付有料老人ホームのほうが安い地域もありますし、介護型ケアハウスも選択肢になります。介護型ケアハウスは数が少ないため、探すのが大変ですが、要介護1から入所できるのがメリット。特養と費用負担が変わらないか、逆に特養よりも安いところもあります。
そして、最後にもうひとつ。特養の待機者は以前ほど多くないことも知っておきたいところです。特養は待機者が50万人を超えていた時代もありましたが、現在は半分くらいまで減ってきていますし、地域によっては、申し込みから2~3カ月程度で入所できるケースも増えています。「親の介護が発生したら、特養の申し込みをして、入所できるまで待機しよう」と考えるのは、時代遅れの発想になりかねないのです。介護保険制度が変わったことを理解しなければ、介護のリスクに正しく備えられないことを知っておきましょう。

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コラム著者

畠中雅子氏
ファイナンシャルプランナー(CFP®)