高齢者の定義が70歳になる可能性

2024年5月23日に行われた経済財政諮問会議で、民間議員より高齢者の定義が65歳から70歳に引き上げる旨の提言が行われました。

日本は少子高齢化が進んでおり、生産年齢人口が減少しています。政府としては「労働力を確保したい」「社会保険制度を維持するために社会保険料の担い手を増やしたい」という考えがあるのでしょう。

今後は定年が70歳になり、ベースとなる年金支給開始年齢が70歳になる可能性が考えられます。実際に、厚生年金制度の発足当初は支給開始年齢が55歳でしたが、段階的に65歳へ引き下げられてきました(国民年金制度の支給開始年齢は当初から65歳)。※1

平均寿命の延びに伴って、今後も公的年金制度が改正される事態は十分に想定できるでしょう。

※1 厚生労働省「平成16年年金制度改正~年金の昔・今・未来を考える~」
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001r5uy-att/2r9852000001r5zf.pdf

65歳以降も働く人の割合は50%を超えている状況

内閣府の「令和5年版高齢社会白書」によると、令和4年度における65歳以上で働く人の割合は50%を超えています。※2

65歳~74歳の労働力人口比率

70歳~74歳の方も、約3人に1人が働いていることがわかります。

なお、現行法では企業に対して65歳まで雇用確保措置を取ることが義務づけられています。※3 70歳までの雇用確保措置は努力義務となっていますが、やがて70歳までの雇用確保措置が義務化されるでしょう。

社会情勢の変化や法改正に伴って、今後も65歳以上で働く方は増えていくと考えられます。つまり、リタイア年齢と年金受給のタイミングが後ろにずれこむことを見越して、ライフプランを考えなければなりません。

※2 厚生労働省「内閣府 令和5年版高齢社会白書」
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2023/zenbun/pdf/1s2s_01-3.pdf
※3 厚生労働省「 「高年齢者雇用安定法」のポイント」p1
https://jsite.mhlw.go.jp/kumamoto-roudoukyoku/library/kumamoto-oudoukyoku/taisaku/kounennreisya/koureikakuhosoti201319.pdf

心身の健康維持と資産寿命を伸ばすための資産運用が不可欠

実際に高齢者の定義と年金の受給開始年齢が引き上げられると、豊かな老後生活を送るために心身の健康維持と資産寿命を伸ばすための資産運用が不可欠となります。

心身の健康維持

老後の経済的不安を解消するうえで、長く働くことは効果的な対策です。長く働いて勤労収入を得られれば、年金を受け取るタイミングが後ろにずれこんでも生活が破綻するリスクを軽減できるでしょう。

しかし、長く働くためには心身の健康を維持する必要があります。心身の調子を崩して働けない状況に陥ると、勤労収入は得られません。

厚生労働省の資料によると、2019(令和元)年の平均寿命は男性が81.41歳で女性は87.45歳でした。「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」である健康寿命は、男性が72.68歳で女性は75.38歳でした。※4

平均寿命と健康寿命の差(2019年)

なお、平均寿命と健康寿命の差となる期間が、常に要介護状態であるとは限りません。「なんか調子が悪いな」という違和感程度で済むかもしれません。

しかし、「体力低下によって日常生活が制限される期間が10年近くあるかもしれない」という悪いシナリオが起こる可能性もあります。悪いシナリオが起こると、「働いて収入を得たいのに働けない」という状況に陥りかねません。

そのため、日頃から健康維持に意識を向けて、心身の健康維持を図る重要性は高まっていくでしょう。定期的な健康診断の受診や生活習慣の改善などを通じて、長く働けるコンディションを維持することが大切です。

※4 厚生労働省「平均寿命と健康寿命」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/hale/h-01-002.html

資産寿命を伸ばすための資産運用

心身の健康維持に加えて、資産寿命を伸ばすための資産運用を行う重要性も高まっています。資産寿命とは、文字通り資産が尽きるまでの寿命を指します。例えば、1,200万円の資産を保有しており毎年120万円取り崩す場合、資産寿命は10年です。

特に医療費や介護費は不確定要素が多いため、「いつ発生するかわからない」「そもそも発生するかわからない」という難しさがあります。心身の健康維持に注意を払っていても、病気や要介護状態になるリスクをゼロにはできません。

残念ながら「働きたいのに働けない」という状況に陥ると、場合によっては年金の繰り上げ受給を余儀なくされる可能性があります。年金を繰り上げ受給すると65歳時点で受け取れる年金額から1カ月あたり0.4%減額され、減額された年金が一生涯続きます。

少ない年金額の受給を余儀なくされると、想定よりも早いスピードで貯蓄を取り崩す必要が出てくる事態が考えられるでしょう。手元の資産が乏しい状況で「働きたいのに働けない」という状況に陥ると、資産寿命があっという間に尽きてしまう恐れがあります。心身の健康を損なうリスクは常につきまとう以上、できる限り多くの資産を用意できれば安心感も大きいはずです。

現役世代の方は、できるだけ早い段階から老後に向けた資産形成を行うとよいでしょう。一般的に、運用期間が長いほど複利効果が働き、資産形成を進めるうえで有利になります。

例えば、毎月3万円を普通預金で貯金する場合(金利は0.02%とする)と毎月3万円を積み立てながら年率5%で運用する場合を比較すると、20年後には以下のような差が生まれます。※5

普通預⾦で貯⾦する場合:20 年後の運⽤資産額約721万円(元本720万円+運用益約1万円)

普通預⾦で貯⾦する場合:20 年後の運⽤資産額約721万円(元本720万円+運用益約1万 円)

 


資産運⽤を⾏う場合:20 年後の運⽤資産額約1,233万円(元本720万円+運用益約513万円)

資産運⽤を⾏う場合:20 年後の運⽤資産額約1,233万円(元本720万円+運用益約513万 円)

※⾦融庁「つみたてシミュレーター」によるシミュレーション

以上のように、500万円以上の差が生まれました。資産運用にはリスクが伴うため毎年5%で運用できるとは限りませんが、効率よく資産を増やすためには、ある程度のリスクを負って資産運用を行う必要性が高いと言えます。

私は現在30代前半ですが、当面の生活費以外の余裕資金は資産運用へ向けています。増えたり減ったりしつつも長期的には資産が増えているため、今後も株式を中心とした資産運用を続けるつもりです。

すでに退職をした方や退職が迫っている方も、資産寿命を延ばすうえで資産運用は有用な手段です。例えば、1,200万円の資産を毎月10万円取り崩す際に、①運用しないケース②年率3%で運用しながら受け取るケース③年率5%で運用しながら受け取るケースでは、資産寿命に以下のように差が生まれます。

ケース ①運用しないケース ②年率3%で運用しながら受け取るケース ③年率5%で運用しながら受け取るケース
資産寿命が尽きる
までの期間
10年 11年11ヵ月 13年9ヵ月

以上のシミュレーションは単純化しているため、必ずシミュレーションの結果通りに資産寿命を延ばせるとは限りません。しかし、「運用しながら取り崩せば資産寿命を延ばせる」という、ざっくりとしたイメージはお持ちいただけるのではないでしょうか。

年齢に関係なく、資産運用を行い働けなくなるリスクや想定以上に長生きするリスクに備えることは有意義といえるでしょう。

※5 金融庁「つみたてシミュレーター」
https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/tsumitate-simulator/

※ 本文は、著者の調査・経験に基づき一般的な内容を掲載したものです。また、各種制度、政策および投資環境については執筆時点のものであり、将来変更となる可能性がございます。資産運用においてはお客様ご自身の収入や貯蓄、生活スタイル等に基づいてご判断ください。

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コラム著者

柴田 充輝氏
FP1級・社会保険労務士