新卒で入社し、定年まで勤め上げる女性が増えてきました。いわゆる「定年女子」です。彼女たちが就職したのは、まさに男女雇用機会均等法が施行された1986年頃。特に大卒でキャリアを積んで来た方たちは、まさに第一世代として、頑張ってこられた方たちです。

「定年女子」が歩んできた時代

「定年女子」が就職した30年前、40年前を思い出してみると、職場での女性といえば、お茶くみ、コピー取りなど花嫁修業の一貫として短期間の社会勉強が就職だといった風潮が少なからずあったと記憶しています。

育児休業法が施行されたのは1991年ですから、当時は仕事を続けるのか、それとも結婚を機に家庭に入るのか選択を迫られた方も多かったでしょう。女性の就労曲線はM字カーブを描くとされ、20代半ばで職場を離れて家庭に入り、子育てが一段落してからパートに出て働くのが一般的とも言われてきました。

そのような時代の中働き続けてきた女性も、いま定年退職を向かえようとしています。しかしながら、そんな「定年女子」の中にも定年を前にしてブルーな気分になる方も少なくないそうです。筆者のところに相談にお見えになった田淵陽子様(仮名・59歳)もその1人です。

来年、定年を迎える女性のケース

~ロールモデルがおらず漫然とした悩みをお持ち~
「来年定年を迎えるのですが、継続雇用を選ぶべきか、別の会社に行くべきか、それとも思い切って仕事を辞めるべきか悩んでいます。いざ定年と言われても今後の人生の目標も見いだせずにいます。」

田淵様は四年制大学を卒業後、就職しました。「女性は補助的な仕事」という社風のなか、それでも楽しい生活を送ってこられました。そして周りの女性社員が結婚を機にどんどん退職していく中でも目の前の仕事をこなし、ふと気付いたら40代に突入したそうです。

そうこうしているうちに、世の中が女性の活躍を謳うようになり、田淵様が勤める会社でも女性の管理職を出そうという目標が掲げられ、気がつくと役職が与えられますます忙殺されていきました。

お勤めの会社には継続雇用制度があり、65歳までは働き続けることができます。提示された時給も、フルタイムで働けば生活をしていくには充分な給与がもらえそうです。しかし、田淵様には女性の先輩社員がおらずロールモデルがないため、継続雇用に不安を感じているのです。

また、新卒の時からずっと会社勤めをしてきた田淵様は、仮に仕事を辞めても何をしたらよいのか未来の自分の姿が想像できず、不安な気持ちでいっぱいになるそうです。更に、これまであまり交流のなかったご近所付き合いにも戸惑っていらっしゃるようでした。

お金の問題以外についても考えておきたい定年後について

筆者はまず田淵様の「ねんきん定期便」を拝見しました。昭和40年生まれのため、特別支給の老齢厚生年金が64歳から、そして65歳からは基礎年金も合算され年金額は約200万円です。

倹約家の田淵様は月15万円程度あれば充分生活はまかなえるとおっしゃいます。40代でマンションを購入し、すでにローンも完済されています。貯蓄は約800万円、退職金も1,000万円ほどありますから、年金支給開始までの生活費としては充分です。

田舎のご両親の暮らしは、妹さん夫婦が近くにいらっしゃるため、今後介護のために引っ越しをする必要もなさそうですし、親からの相続で大きなお金が入ることもなさそうとおっしゃいます。他にも、ご自身の介護はどうするのか、亡くなったらどうなるのかなど様々なお話をさせていただきました。

これらを総合すると、経済的にひとまず問題はないと考えられます。
一方で、これからのことに前向きになれないまま、なんとなく仕事を辞めてしまうのはとてももったいないことではないかと筆者は考えました。これまで田淵様が会社員として頑張ってこられた年月とほぼ同じだけの時間がこれから待っているのですから、ここはやはり喜びを持ってこれからの時間を迎えたいものです。

田淵様と対話を続けていると、今まで接する機会が少なかった方、例えば長く子育てに従事されてきた方などと、どのようなお話をすればよいのか、定年後の日々の生活が想像できない、という不安が非常に大きいように感じました。

「私の幸せの尺度」でこれからの人生を考えてみる

筆者は、たくさんのお客様の人生を見てきたからこそ感じますが、苦労のない人生を送ってきた人は誰1人いません。それは田淵様のように定年まで勤め上げた方もそうですし、途中で会社を辞める道を選んだ女性たちや男性であっても同じです。そういう意味では今後もお互いに理解しあう関係性を築く工夫はすべての人にとって必要なのではないでしょうか。

田淵様のように経済的に大きな不安がないケースでは、生活のために働くことから一歩離れ「自分なりの幸せ」を見つけるためにボランティアでも勉強でも新しいことにチャレンジされてみるのも選択肢の1つではないかと思います。会社以外の様々な方と触れ合うことで視野が広がると思いますし、田淵様のこれまでのキャリアはどこでも役に立つでしょうからご自身の価値の再確認もできるのではないでしょうか?

田淵様だけではなく、心の準備ができる前に定年間近になり、漠然とした不安に駆られる方も少なくないと聞きます。まずは、お金や家族の問題と向きあう方が多いと思いますが、お悩みは一人で抱えず、ファイナンシャルプランナーなどの専門家にご相談されてはいかがでしょうか。人と話すことで思いもよらない解決策が見つかるかもしれません。

次回、田淵様にお会いした際は、田淵様らしい「私の幸せの尺度」についてお話を聞かせていただけることを楽しみにしています。

※ 本文は、著者の調査・経験に基づいた内容を掲載したものです。また、各種制度、政策および投資環境等については執筆時点のものであり、将来変更となる可能性があります。また、年金についての詳細は生年月日等によっても異なるため、各相談窓口等でご確認ください。

  • 本資料は、情報提供を目的として作成した資料であり、特定の金融商品取引の勧誘を目的とするものではありません。
  • 本資料は、各種の信頼できると考えられる情報をもとに作成されていますが、その正確性・完全性が保証されているものではありません。
  • 本資料の中で記載されている内容・数値・図表・意見・予測等は、本資料作成時点のものであり、将来の市場動向、運用成果を示唆・保証するものではなく、また今後予告なく変更されることがあります。
  • おかねの羅針盤®はアムンディ・ジャパンの登録商標です。

コラム著者

山中 伸枝⽒
心とお財布を幸せにする専門家、ファイナンシャルプランナー