筆者は18歳でオーストラリアの大学に留学し、また30代後半の2007年、再びオーストラリアの大学院に進学するほど、この国にご縁がありました。
オーストラリアは日本よりも預金金利が高く、定期預金をするだけで足もと年間4~5%の金利がつくため、リタイア後の移住先としても人気です。金利だけで生活している日本人夫婦もいらっしゃいました。また、私がホームステイしていたイギリス人夫婦は、住んでいる家の価格が上がると家を売却して、その売却した利益で生活していました。私はそれに付き合わされて、半年のうち2回も引越しをしました。
そんなオーストラリアですが、世界的に見本とされている点は、公的年金に加えて確定拠出年金が義務化されていることです。
ここは高齢化が進み、将来の年金について不安を抱ている人が多い日本が見習うべき点かもしれません。後半で詳しくご紹介します。

平均年収1,000万円を超えたオーストラリア

まずはオーストラリアの生活水準についてご紹介します。
世界有数の鉱産物や農産物の輸出国であるオーストラリアですが、コロナショックやロシア・ウクライナ問題でインフレは4-5%程度まで上昇しました。
けれども同時に賃金も上昇しており、2024年オーストラリアの政府統計局によるとオーストラリアの平均年収が、初めて10万豪ドル(約1,000万円)を超え、時給も2,300円で、足もとも前年比で4%ほど増加しています。
ちなみに、日本円との金利差が拡大していることから、為替も足もと1豪ドル=100円程度と円に対しても上昇しています(2024年4月現在)。そのため、オーストラリア人の日本への旅行客やインバウンド消費も過去最高となっています(2023年)。
そんなオーストラリア人は普段何にいくら払っているのでしょう。
ある銀行のレポートでは、2023年第3四半期では平均で毎月の支出は2,920豪ドル(約29万円)で、住宅ローンなどの「家賃やその他の住居サービス」が最大の支出となっており、次いで「娯楽・文化」、「食品」、「保険・その他のサービス」、「ホテル・カフェ・レストラン」となっています。

続いて気になる資産運用についてもみていきましょう。

債券型のETF(上場投資信託)が人気のオーストラリア

オーストラリア証券取引所の市場規模は日本の3分の1程度で、さほど大きくはありません。業種の構成は金融と素材が半分近くを占めている特徴があります。
オーストラリアにも日経平均株価と同じような代表的な株価指数ASX200(主要約200社の平均株価)があり、ここでも銀行や資源、鉄鋼などが主要銘柄です。

足もと、オーストラリアで人気が高まっている投資資産はETF(上場投資信託)です。ETFは世界的に人気が高いもののオーストラリアでは特に高く、ETFは投資資産に占める割合が1位となっています。調査資料によるとETFは2020年の15%から2023年には20%に増加しています。
過去2年間で初めて投資した人のうち、14%がETFを選んでいます。金融誌の調査では、特に債券型のETFに関心が高いようです。債券が人気なのは、安定性を重視する日本人と似ているかもしれませんね。
また、オーストラリア国債の利回りは4%前後で格付けもAAAと、利回りも信用力も日本より魅力的なところも人気の理由だと言えます。
加えてこの後ご紹介する年金制度が充実しているため、あまりリスクを取った資産運用に必要性を感じていないのかもしれません。

ちなみに日本も同様に、国債の金利はまだ低く1%以下ではあるものの、今後金利上昇が見込まれるにつれて、変動金利型の個人向け10年国債にも関心が向けられるかもしれません。

オーストラリア人が投資する理由としては、 46%が良いリターンが得られるからで、 34%が老後のため、 24%は貯蓄率が低いからなどと回答しています。
投資家の年齢層は55歳から64歳が最も多く、そのうち13%が10万ドル以上に投資してます。私も50代ですが、定年後の生活費が急に心配になる年代ですので、このタイミングで将来のために行動を移したくなるのはわかる気がします。

世界から注目されている確定拠出年金制度

最後に気になる老後の年金制度についてです。どのような構造になっているのでしょうか。
オーストラリアの年金制度は、1階部分の公的年金(老齢年金:Age Pension)と2階部分の私的年金の2階建てになっています。
1階部分の公的年金は日本と同じ「老齢年金」「遺族年金」「障害年金」の3種類ですが、
オーストラリアの特筆すべき点は、公的年金部分はなんと全て税財源からまかなわれており、個人や企業による保険料の負担はありません。給付も平均賃金の3割前後と悪くありません(所得が一定以上ある人は、減額または支給停止されます)。

そして、2階部分の私的年金は「スーパーアニュエーション」と呼ばれる確定拠出年金で、18歳以上で月収450豪ドル(約45,000円)以上、週30時間以上の被用者(パート労働者等含む)にはすべて加入することが義務付けられています。企業は賃金の9.5%の金額を拠出することが義務付けられていましたが、その後拠出額は段階的に引き上げられ、2025年7月からは12%となる予定です(一部年収制限あり)。

2019年におけるスーパーアニュエーションの資産額は、名目GDPの約1.5倍に拡大しており、2035年には資産額は9.5兆豪ドルまで増えると見込まれています。

また、オーストラリアの確定拠出年金スーパーアニュエーションは政府による試行錯誤の結果、全体の資産構成割合も国内外の株式や債券、不動産などバランスの取れた配分となっているところも注目すべきポイントです。

オーストラリアの年金制度は、日本のみならず世界から見ても羨ましい限りですが、この制度も1992年に創設されトライアンドエラーを繰り返しながらここまで成長してきたのです。
私たち日本人の資産形成はまだ出発地点ともいえます。
今はご自身の会社に確定拠出年金制度があるのなら加入状況を調べてみるとか、資産運用の勉強を始めてみる、少額から投資を始めてみるなど、これからトライアンドエラーを繰り返し、理想形に近づけていく段階なのかもしれません。
 

※1豪ドル=100円として円換算しています。
※本文は、著者の調査・経験に基づき一般的な内容を掲載したものです。また、各種制度、政策および投資環境については執筆時点のものであり、将来変更となる可能性がございます。資産運用においてはお客様ご自身の収入や貯蓄、生活スタイル等に基づいてご判断ください。

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コラム著者

柏木 理佳⽒
生活経済ジャーナリスト、MBA(経営学修士)取得後、育児中に博士号取得。海外10年滞在。ファイナンシャルプランナー。