Vol.30「改めて資産運用の重要性(前編)」で資産運用(資産形成)を行わない場合のデメリットを主に述べましたが、今回は行う場合のメリットを中心に述べることにしましょう。

時間を味方に付けた資産形成を

定期預金等の金利から得られる利息が少ないと老後資金2,000万円を準備するにも毎月多額の積立が必要と述べましたが、資産運用を行い相応の収益を得ることができれば反対に毎月の積立額は少額で済むことから見て行きましょう。

収益率を高くすればするほど毎月の積立額が少なくなりますが、年間の収益率が10%などといった二桁の状態が将来にわたり永遠に続くのは非現実的と言わざるを得ません。単年であれば二桁の上昇率を得られることが中長期の運用であれば数回はあるかもしれませんが・・。話がややそれますが、ネット上にはびこる、あるいは勧誘される年率10%超を約束するような儲け話は眉唾ものと思うべきなのです。下記の図にはさまざまな収益率のケースを載せておきましたが、ここでは収益率3.0%の場合を取り上げてみましょう。

年率3.0%というのは概ね世界経済の成長率と言われることから、世界に分散投資を行えば経済成長率が期待収益になると考えられるわけです。また、主要国の中央銀行は物価の上昇率を2.0%前後で推移するように金融政策の舵取りを行っていることから、3.0%の収益率を確保できれば購買力が低下してしまうケースもあまりないと考えられるのです。

老後資金2,000万円を収益率3.0%で準備する場合、35年間では毎月2万7,125円、30年間で3万4,472円、25年間で4万4,983円、20年間で6万1,305円、図表への掲載はありませんが、15年間で8万8,189円、10年間では14万3,060円になります。株式や投資信託などの元本が保証されていない金融商品を利用した資産運用(資産形成)では「絶対」はありませんから、余裕資金で行うことになりますが収益率が3.0%確保できたとしても毎月5万円を超える積立額を捻出し続けるのは大変です。このため時間を味方に付けて早い内から資産形成を行いましょうと言われるわけです。30年間なら3万4,472円、35年間なら2万7,125円の毎月の積立で2,000万円を準備することができるのです。前回のコラムに述べた利率0.3%では35年間で4万5,161円、30年間では5万3,091円の積立が必要になりますから、その差はかなり大きいと言わざるを得ないはずです。

2000万円を準備するための毎月の積立額(試算)

「自由」を得るという豊かさ

資産運用を行い資産の山を築くもう1つのメリットは、選択肢の多さといった豊かさを計る尺度のほかに「自由」を得るという尺度の豊かさが得られることです。この場合の自由というのは仕事に束縛されない生活と言い換えてもよいでしょう。一時期話題になった早期リタイアである「FIRE」も資産の山を築いて経済的に自由になるということであったはずです。資産の山を築いていればFIREのほか、転職や一時的な休業をして大変な仕事から解放される、学び直しのリスキリング、起業や商売を始める等々、働き方やライフスタイルを含めて大きく舵を切ることも容易といえるでしょう。

私事で恐縮ですが、筆者はFPとして独立(起業)して28年目に入りましたが、ある運用会社の役員の方に「資産形成は早め、かつ、しっかり行い資産の山をできるだけ築きなさい」と助言を受けたことを度々思い出します。「独立当初は仕方がないかもしれないが、資産の山を築いておけばお金のために仕事をする必要がなくなるよ。独立した意味はお金のためではなく自分がやりたいことをやるために独立したんだろう。そのためには資産の山を築けるか否かが大事なんだ」と言われたことを今でも思い出すのです。振り返って見ると独立当初はがむしゃらに働きましたが、資産を徐々に築いて余裕ができると自分の主旨に反する仕事は断るようになったのですから(もちろん断った背景は資産の山を築いたからだけではありません)。

デフレ脳をリセットするタイミング

資産運用を行い資産の山を築く効用はご理解できたと思いますが、このような反論もあることでしょう。物価は経済的な事象なのだから上がる時もあるし、また将来的には下落することもあるはず。下落した場合は貨幣価値が上昇、かつ購買力も上昇するのだから資産運用にそれほど力を入れなくてもよいのでは?という意見です。

実際、筆者もこの手の質問を受けたことは多々あります。その答えは1990年代後半から数年前までの物価が下落するデフレ期の考え方を改める必要があるということです。図らずしもその状況を知らしめたのが新型コロナの混迷からの回復局面と思われてならないのです。日本は食料、資源エネルギーが残念ながら自給自足できない国です。日常の生活を過ごすだけでも諸外国から食料、資源エネルギーなどは輸入しなければならない、しかも日常生活を守るためには価格が高くてもです。

化石燃料海外依存度・食物自給率

2022年から起きた日本の物価の高騰はまさに食品、資源エネルギー価格の上昇がその要因なのです。環境に配慮して太陽光や風力発電などへの切り替えも考えられていますが、これら自然エネルギーは発電コストが高いため自然エネルギーへの転換が進むほど電気料金などは高止まりするのです。食料、資源エネルギーの価格も上下動があることから、日本の物価も上下動があるでしょうが、自給自足ができないという日本のアキレス腱が改善されない限り物価が再び下落するデフレに戻り、またそれが長期化することは考えにくい、つまりデフレから持続的に物価が上がる経済に変化したとデフレ脳をリセットしなければならないのです。

電力料金(ガス)は安くなるのか?
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コラム著者

深野 康彦⽒
有限会社ファイナンシャルリサーチ代表