前回は退職後の保有資産を、運用する資産と万一の時に使う資産の2つに分けることを紹介しました。運用資産が将来、万一枯渇してしまった時に緩衝材(バッファー)のように使うという意味で、バッファー資産と呼んでいます。

万一の時のための資産ということで一般的には預金を想定しますが、将来、運用資産が枯渇したときのために人生の最後半まで残しておくことを考えると、今の低金利の預金では流動性以外のメリットはほとんど望めないことが課題になります。それどころかインフレが進めば、20年後、30年後の生活費を十分カバーできるだけの「購買力」を持たなくなっているかもしれません。

万一のために株式を保有するという米国のアイデア

米国では、こうしたバッファー資産として、預金などの代わりに「配当を重視する株式」を活用する考え方があります。単純に考えれば、ハイリスクの代名詞である株式ですが、長期投資に耐えうる優良な銘柄を長く保有することで、バッファー資産になりえるという考えです。しかも途中で配当を受け取ることができ、それを生活費に充てれば運用資産の取り崩し抑制にも効果が見込めるという発想です。

株式なので価格変動は避けられませんが、①そのリスクが相対的に小さいものを選び、②長く保有すること、を前提に考えるわけです。「配当を重視する」という意味は、その企業が株主に対して株価の上昇という価値を提供する成長企業 (その分、株価の変動を大きくなりがちです)ではなく、株主に対して稼いだ利益を配当で還元するというタイプ成熟企業(成長性が少ない分、株価の変動は小さい)を選んでいるということになります。そのため投資の収益性は小さくなりがちですが、その分、価格変動のリスクは小さくなってきます。

またそもそもこの万一のための資産であるバッファー資産は、20年、30年後の生活費のために保有するものですから、長期での投資も前提にすることができます。結果として、先ほどの①と②の2つの点をカバーしているということになります。さらに、懸念されるインフレに対しても、相対的に少ないとはいえ預金よりも収益性が高いわけですから、その課題を相殺する力も持っているはずです。

投資信託をバッファー資産に

もちろん個別銘柄を使って預金の代わりにするというのは、考え方は理解できてもなかなか簡単に実行できるものではありません。個別銘柄の代わりに投資信託を上手に活用することで、預金に変わるバッファー資産を創るということも考えられます。 分散投資が効果的に、より広範囲に行われている投資信託であれば、相対的にリスクが小さくなりますから、20年、30年の継続的な保有を前提にすれば、前述の①と②はカバーできます。

ところで投資信託のなかには、分配金を出すタイプもありますが、このバッファー資産としては、取り崩すのは最後の最後ということですから、分配金の無いものがより当てはまります。ただ、米国流の「株式のなかでも配当を重視したもの」をバッファー資産に使うという点を念頭に置くと、配当のように分配金はあっても元本の毀損を進めない程度のものであれば許容できるとする人もいるでしょう。

投資信託の分配金には、普通分配金元本払戻金(特別分配金)の2つがあることをご存じかと思います。元本払戻金は、その名前の通り、投資した元本を払い出してしまうものですから、バッファー資産としてはそうした投資信託は適切ではありません。バッファー資産で使う投資信託としては、元本に手を付けないという意味で、元本払戻金がないものが理想です。

ETFも活用できるかも

一般の投資信託とは違って、取引所で売買される上場投資信託(ETF)もバッファー資産として活用できる余地があります。ETFにも分配金があるタイプがありますが、その分配金は組み入れ株式などの配当や受取利息などを原資とするように税法で定められていますから、原則元本に手を付けないままに保有することができます。こちらも十分に分散投資されたETFであれば、20年、30年を想定した長期投資で、バッファー資産としての役割を果たすことができると考えます。

バッファー資産として投資信託を長期保有する考え方

バッファー資産として投資信託を長期保有する考え方
  • 本資料は、情報提供を目的として作成した資料であり、特定の金融商品取引の勧誘を目的とするものではありません。
  • 本資料は、各種の信頼できると考えられる情報をもとに作成されていますが、その正確性・完全性が保証されているものではありません。
  • 本資料の中で記載されている内容・数値・図表・意見・予測等は、本資料作成時点のものであり、将来の市場動向、運用成果を示唆・保証するものではなく、また今後予告なく変更されることがあります。
  • おかねの羅針盤®はアムンディ・ジャパンの登録商標です。

コラム著者

野尻哲史⽒
合同会社フィンウェル研究所代表