これから6回に分けて資産運用やお金の考え方などについて様々な国の事例をご紹介します。日本にいながら、各国の事例を知っていただくことで、将来への不安を軽減するお金の貯め方、投資方法などをご参考にしていただけるかもしれません。1回目は、英国についてです。

英国を見本とする新NISAの導入

日本では今年から、非課税期間が無期限、投資上限額が増加した新NISA(ニーサ)が始まりました。実はNISAは、英国のISA(Individual Savings Account:個人預金口座(制度))を見本にしたものです。ISAに、日本(Nippon)のNをつけて「NISA(Nippon Individual Savings Account)」になりました。
これまで日本のNISAは非課税期間が限られ非課税枠も少額でしたが、2024年から英国並みの拡充となりました。英国並みとなったものの日本と大きく違う点は、英国ではISA口座で預金もできることです。預金もできるなら、とりあえず非課税の投資限度額(2万英ポンド(約362万円))までISA口座に資金を入れておこうと考える人が多く、1999年に導入された制度ですが今でも口座数は増え続けており、現在では国民の7割以上がISAに加入していると言われています。

英国ISAと日本の新NISAの比較

  〈英国〉ISA(株式型) 〈日本〉新NISA
年間投資額 2万ポンド(約362万円) 合計360万円
非課税保有期間 無期限 無期限
非課税保有限度額 無制限 合計1800万円

(1英ポンド=181円で換算)
※株式型ISA、預金型ISA、イノベーティブ・ファイナンスISA 及びライフタイムISA の合計年間拠出限度額。(ライフタイムISA には個別に4,000 ポンドの年間拠出限度額も設定されている)

さらに、英国のISAが人気があるのには理由があります。
それは様々な種類の口座があるからです。
日本と違って、前述の通り預金もできる「Cash」の口座もあります。そして、退職金や住宅のための「Lifetime」の口座もあり政府から補助金の支給もあります。その他、ピアツーピアローン(個人間融資)、クラウドファンディング債券などの商品が対象となる「Innovative finance」など目的ごとの口座があるのが特徴です。
また、「Lifetime」は、初めて住宅を購入するための口座です。18歳から40歳までに口座を開設しなければなりませんが、50歳まで毎年 4,000英ポンド(約72万4,000円)まで預金や投資ができます。
政府が初めての住宅購入者向けに、ボーナスとして、非課税で毎年預金額の25%(最大1,000英ポンド(約18万1,000円))まで上乗せしてくれます。しかし、口座から引出しする場合は住宅購入の目的のためや60歳以上、余命12カ月などの条件が付き、それ以外に引き出した場合は、上乗せされた25%を払わなければなりません。

英国ISAの主な口座の種類

欧米ではマネーロンダリング防止のため銀行は厳しく個人の資金の流出、使途を管理していますが、代わりに若者の住宅などに還元し支援しようとしています。
今後、日本のNISAでも目的別口座や控除額を増やすなど、より実用的な内容が増え、さらなる資産形成を国が後押ししてくれることを期待したいです。

環境問題に真剣に取り組む英国人

私はコロナ前の2019年に英国消費調査の論文のために英国に1カ月ほど滞在する機会がありました。すると、驚くことにどこのお店に行ってもレジ袋がありませんでした。プラスチックのレジ袋だけでなく紙袋でさえ一切なし、販売もしていません。マイバックを忘れたら手に持ってそのまま持ち帰ります。環境対策が徹底されていて、文化や環境を大事にする英国に住んでいると、明るい将来を願う気持ちと、妥協を許さない英国人の強いプライドのようなものを感じました。スーパーでは、アウトレットの古着が新品を販売している隣に売られていたり、住宅も数十年程で建て替えられる日本と違い築100年でも使用されていたりと、歴史的な趣があります。

英国の医療保険制度

日本とは大きく異なる英国の医療保険制度もご紹介しましょう。高齢者が増えて医療費が膨らんでいるのは日本と同じですが、日本のように健康保険に加入し所得に応じて1割から3割の医療費負担でどこでも気軽に病院に行きたくさんの薬をもらえる、ということはありません。

英国では、National Health Service (NHS)と呼ばれる国民健康医療制度があり、無料で診察を受けることができます。しかし、利用できるのはNHSが適用される公共の病院だけで、受診にはかなりの時間を要します。例えばかかりつけの総合診療医が「専門的な診察が必要」と判断してNHS専門医に紹介した場合でも、受診まで数ヵ月ほど待機しなければならないのが一般的です。もし、早急に診察を受けたい場合は、民間の病院で診察してもらうことができますが、数万から数十万円かかることもあります。民間保険に加入している人はそれでカバーできる場合もありますが、多くの人は加入しておらず、自費で払うことになります。

Z世代の6割が投資、全体でも約半数が投資

そうなると、いざという時のために、自分でしっかりと貯蓄、保険、年金等で賄わなければなりません。
そのため、多くの人が投資を取り入れていて、シニア世代だけでなく若者も投資への意識が高いのです。
「コロナ禍のため家にいてネットで株式投資できる時間ができた。非課税枠や優遇制度が使えるのも大きい」と英国人の知人男性(65歳)が話していました。
また、20代を中心としたZ世代では5人に3人(60%)が投資経験があると答えており、年代別では最大のシェアを占めています。知人の英国人女性(25歳)は「ITバブル以降10年あまり、ずっとマイナス金利だったので預金ではなく投資を考えた」と話しています。

一方、日本のZ世代は投資に対してはまだ少し消極的なようで、興味はあっても実際に投資しているのはZ世代の1割余りでしかないと言われています。いかに英国の若者が投資への意識が高いのかがわかります。

英国人が投資しているものは?

英国の人たちが何に投資しているかといいますと、2023年で最も一般的なのは株式で30%の人が投資をしています。2位は債券で17%の投資家が選んでいます。中でも、70代後半から90代半ばのサイレント世代は債券を選ぶ人が多くなっています。年齢とともに安定性の高いものを選ぶという点は日本でも同じでしょう。
次いで投資信託の14%でした。ちなみに、40代から50代後半までのX世代は投資などの知識もあるため、投資信託に投資したことがあると答えたのはわずかで、多くは個別銘柄に投資をしています。
また、暗号資産は全体の11%で、特に20代後半から40代前半の若いミレニアル世代が興味をもっています。Z世代は日本と同様環境問題、SDGsに関心が高いようですが、それを投資という形で行動に移して環境銘柄を選んでいるのが英国のZ世代です。この分野への全体の投資割合は9%ですがZ世代の環境投資が他の世代に比べて最も高くなっています。

英国の人々の自助努力の心を取り入れてみては

英国人は、いざという時の医療費などしっかりと自分で自分を守らないといけません。そのため、将来を見据えて、多くの人が預金だけでなく投資もしています。また若者を中心に環境問題への意識が高く、レジ袋削減などに取り組むだけでなく投資においても環境銘柄を選ぶなど、身近な課題を解決するために投資が選ばれているようです。我々も見習って投資を考えてみるとよいかもしれませんね。

※ 1英ポンド=181円として円換算しています。
※ 本文は、著者の調査・経験に基づき一般的な内容を掲載したものです。また、各種制度、政策および投資環境については執筆時点のものであり、将来変更となる可能性がございます。資産運用においてはお客様ご自身の収入や貯蓄、生活スタイル等に基づいてご判断ください。

  • 本資料は、情報提供を目的として作成した資料であり、特定の金融商品取引の勧誘を目的とするものではありません。
  • 本資料は、各種の信頼できると考えられる情報をもとに作成されていますが、その正確性・完全性が保証されているものではありません。
  • 本資料の中で記載されている内容・数値・図表・意見・予測等は、本資料作成時点のものであり、将来の市場動向、運用成果を示唆・保証するものではなく、また今後予告なく変更されることがあります。
  • おかねの羅針盤®はアムンディ・ジャパンの登録商標です。

コラム著者

柏木 理佳⽒
生活経済ジャーナリスト、MBA(経営学修士)取得後、育児中に博士号取得。海外10年滞在。ファイナンシャルプランナー。