退職しても働くってどういうこと?

 

「退職しても少しは働きたいよね」、
「そうだね、社会の役に立ちながら少しお給料をもらえるといいよね」
こんな会話をされたことはありませんか。60代を迎えると少しは考えたことのある、会社を辞めた後の働き方のことです。

でもちょっと考えると、“退職したのにまだ働く”というのは変な表現ではありませんか。厳密に考えると、退職とはもう仕事をしないことですから、退職してからもまだ働くというのは矛盾しています。会社によっては、定年がある場合には、「定年後も少し働きたい」という表現はあり得るかもしれません。そこで退職とはどういうことかをお金の目線から考えてみたいと思います。

退職による生活の等式の変化

現役時代、多くの方は、お給料から生活費を引いて残りを貯蓄や資産形成に充てるという考え方を持つことでしょう。これを等式にすると「勤労収入=生活費+貯蓄・資産形成」となります。経済学の考え方のひとつに、「現役時代は生活費よりも勤労収入が多く、その余剰は将来の生活費に充当する」と考えるライフサイクル仮説というものありますが、これに沿った行動といえます。

この等式を、「勤労収入-貯蓄・資産形成=生活費」と改めて、お給料から先に資産形成分を先取りして、残りで生活をするという資産形成を優先する「先取り投資」の考え方を示すこともできます。

一方で「退職」をすると、等式の優先順位は生活費に変わります。勤労収入が先にあるというわけではなく、生活費をどの収入で賄うかという収入の選択のための等式に変わります。すなわち「生活費=勤労収入+年金収入+資産収入」です。

退職直後だと年金収入は受け取れなくても、まだ働くことで少しは勤労収入が見込めます。それでも足りない部分は、現役時代に作り上げてきた資産からの取り崩し(=資産収入)も活用します。

年金を受取れるようになってからも、勤労収入が見込めるのであれば、無理に資産を取り崩す必要はありません。もちろん年金収入と勤労収入だけで足りなければ資産を取り崩さざるを得ないこともあるでしょう。さらに完全に働けなくなったら年金収入と資産収入だけで生活するようにもなってきます。

収入と支出の等式(現役時代と退職後時代の違い)

収入と支出の等式(現役時代と退職後時代の違い)

「勤労収入<生活費」の状態が退職

こうした点を理解したうえで、「退職」という言葉を改めて考えてみることにしましょう。退職によって生活の等式の左辺は勤労収入から生活費に変わりました。これは、現役時代は「勤労収入>生活費」だったのですが、退職後は「勤労収入<生活費」に変わったことを示しています。言い換えると「退職後の生活」とは仕事をしない生活という意味ではなく、生活費を賄えるほど勤労収入がない状態ということです。

退職した後、アルバイトで収入を得ている場合の多くは「勤労収入<生活費」の状態でしょうから、これは退職後です。会社に継続雇用として残っているとしても、お給料が大幅に下がって同様に「勤労収入<生活費」の状態になれば、これも退職後と考えるべきでしょう。繰り返しますが、仕事を辞めたことが退職ではなく、仕事で得るお給料だけでは生活費を賄えなくなった段階を退職後と考えるのです。

「退職」したら積立投資は卒業、だが資産運用は継続

ところで積立投資が若い人たちのなかで流行っています。なかには60代、70代になってもリスクを軽減するために積立投資をするべきだという考えを持っている方もいらっしゃるかもしれません。ただ、先ほどのように「退職」をお金の視点でみると、勤労収入が生活費を下回った段階では、お給料から積立投資をする余裕はありませんよね。その段階で、積立投資からは卒業になります。

もちろん積み立てることができないだけで、それまで積み上げてきた資産での投資は継続することができます。積立投資はできないけれど、投資の継続はできるというのが、退職後のお金との向き合い方の大事な側面です。

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コラム著者

野尻哲史⽒
合同会社フィンウェル研究所代表