20年ぶりの高水準となった有価証券購入額―若年層が牽引

ここ数年、若い人たちの資産形成に対する意識が高まっています。NISA(少額投資非課税制度)やiDeCo(個人型確定拠出年金)に関する話題がメディアにどんどん登場していることからも、そうした流れを窺い知ることができます。

では実際にどれくらい高まっているかを総務省「家計調査」のデータでみてみましょう。政府が発表している「家計調査」という統計データは、アンケート調査の参加者に毎月の収入と支出を細かく記載してもらいそれを集計したもので、いわば日本国民の月次の家計簿のようなものです。そこには、細かく項目別の消費の他に、有価証券購入額や売却額も記載されています。ただ、月次のデータのため、毎月のぶれ幅が大きいことが難点です。

下のグラフは、その「家計調査」における有価証券の購入額を過去12ヵ月の移動平均値を計算してまとめています(二人以上の勤労世帯のみを対象にしています)。

有価証券購入額の推移

まず全世代平均の動きをみてください。2018年に平均購入額は2000円台に乗せ、そこからじりじりと平均購入額が上昇していることがわかります。実は2000円台に乗せたのは2000年以降で初めてのことですから、大きな変化といっていいでしょう。そして2021年になると、平均値は3000円台へと上昇しました。

それ以上にグラフでインパクトがあるのが、30代以下の若い人たちの積極的な有価証券購入額の推移です。2018年くらいから34歳以下と35‐39歳の層で平均額が急上昇し始めています。つみたてNISAが導入されたのが2018年ですから、そのあたりから大きなうねりが始まったことがわかります。その後、2019年の老後2000万円問題で資産形成の必要性を理解し、2020年からのコロナ禍で万一のための資産の必要性も痛感したのではないでしょうか。こうした一連の流れがあって、投資に対する前向きな姿勢が強まり、2021年くらいからはそれまでとは全く次元の違う水準にまで平均値が高まっています。全世代平均も上がっていますが、40歳未満の層の水準がそれを大きく上回っていますから、若年層が全体のけん引役になっていることがわかります。

若年層の売却も顕著

一方で売却額も急増していることが気になります。特に35⁻39歳層は、購入額急増に連動するように1年ほど遅れて売却額も急増しています。購入が増えれば売却も増えるのは当然といえば当然なのですが、全世代平均ではそれほど売却額の増加が顕著ではありません。また、つみたてNISAの好影響で購入額が増えていることで、売却額も増えているのかもしれません。

ただ、つみたてNISAは非課税期間が20年もあるわけですから、1年程度で利益確定をするようなパターンが広がっているということは、かなり大きな懸念といえそうです。

有価証券売却額の推移

新NISAの導入でマインドセットの変化に期待

このマインドセットを変えられるのは、「枠」の撤廃、すなわち非課税期間の無期限化しかありません。そうしたなか2024年からNISAが大きく変わり、制度の恒久化と非課税期間の無期限化が行われることになりました。併せて、年間の非課税投資上限額はつみたてNISAが従来の40万円から120万円に、一般NISAが120万円から240万円へと大幅に引き上げられ、さらに両方とも使えることになったため実質的に上限は360万円に引き上げられました。

非常に望ましい大変革です。英国のISA(個人貯蓄制度)をもとに2014年にスタートした日本のNISAですが、ちょうど10年経過して英国並み(制度・非課税期間ともに恒久、年間投資上限は2万ポンド=約320万円)になったといえるでしょう。

投資の入り口が広くなっただけでなく、一段と長期投資をしやすくなったことを是非理解して、あわてて利益確定に走るようなマインドセットから抜け出して欲しいと思います。

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コラム著者

野尻哲史⽒
合同会社フィンウェル研究所代表