長期投資は必ずしも成功しない

資産運用をする際によく言われるリスクを軽減する方法の1つが、長期投資です。大切なことなのですが、十分に理解されているか、ちょっと気にかかるものでもあります。

「長期投資とは長く投資を続けること」といわれますが、単に「一度保有したらその銘柄を持ち続ける」という意味ではないことを知っておいていただきたいと思います。ある人が入社した上場会社の自社株を、入社時から毎月、給与から少しずつ購入してきました。いわゆる「自社株買い」です。しかし、その会社はその人が入社してから15年後に倒産してしまいました。この人の場合には、15年という長期にわたる投資を、しかも積立投資で行ったにもかかわらず、結果は上手くいかなかったわけです。「長期投資をすれば投資は必ず上手くいくわけではない」ことのサンプルのひとつです。

この場合、投資対象として選んだ自社株が、安全な投資対象ではなかったことが課題でした。いくら長期に投資しても、その投資対象がそれに耐えうる対象でなければ意味がありません。安全で、大丈夫な投資対象をみつけることが、長期投資には大切なことなのです。しかし、普通の人にそれを見つけられるでしょうか。そこで大切なのが分散投資という考え方です。

分散された資産への長期投資

分散投資も、投資のリスクを軽減する方法としてよく紹介されるものです。例えば、資産クラスでは、株式と債券に資産を分けるとか、個別株ではグロース株ディフェンシブ株、国内株と海外株といった組み合わせが分散投資の例示として良く見られます 。それぞれの資産の価格の動きが似ているかどうかを示す相関係数が低いほど、すなわち動きが似ていないほど分散の効果は高いといわれています。

しかし価格が違う動きをするというだけでなく、万一、投資している対象の資産価値がゼロになることがあっても、多岐に分散していればすべての資産が無くなることにつながらないという点も大切です。多くの資産に投資していることで、その中のひとつが先ほどの例のように倒産するというような上手くいかない状況になっても、その影響を他の資産の力で打ち消したり、薄めたりすることができるのです。分散されている資産、すなわちより安全性の高い資産を選んで、長期に投資することが大切だということです。長期投資と分散投資は不可分なものなのです。

ところで、自社株買いという投資の方法にも目を向けてみましょう。給料の源泉と運用先、という2つの資産で考えてみると、同じ会社ということで分散されていないことがわかります。分散投資は大切だと分かっていても、単に投資の株式と債券の話だけでは、お金と向き合うという面では不十分です。これを生活の中にまで入れて考えることも大切です。もちろん自社株買いを否定するものではありません。一般に自社株買いは手数料がかからなかったり、補助金があったりと、資産形成には大きな力になりますので、これを使わない手はありません。ただ、これだけに頼ることはリスクを軽減できていることにはならないということです。他の金融資産も同時に保有することを考えるべきなのです。

「卵は1つの籠に盛るな」の格言は正しいか?

今度は分散投資についても考えてみましょう。分散投資の効用も十分に理解できているかちょっと心配です。分散投資を説明するのによく使われるのが、「卵は一つの籠に盛るな」という格言です。「9個の卵を一つの籠に入れていて、万一落としてしまったらすべて割れてしまいます。でも3つの籠に分けておけば、万一ひとつを落としても、残り6個は無事です」といった説明を聞いたことがあると思います。しかしこの格言の意味は、あまり正確に伝わっていないのではないでしょうか。

投資で考えると、割れた卵は損失の意味ですから、9個割れても、3個割れても、損は損です。なぜ3個割れるのがいいのか、これでは十分に伝わらないと思います。しかし、残った卵のその後を考えると、分散投資の本当の意味が伝わっていくように思います。この割れなかった6個の卵が将来、雛に孵って、親鳥になって、また卵を産むというプロセスがあれば、残った卵が利益を生み出すということがわかります。分散投資は、それだけではなく、その後の卵の成長のプロセスにあたる「長期投資」と組み合わせて初めて、本当の力を発揮するということが、この卵の格言では大切なことなのです。

卵は羽化しないと意味がない

そうなるとこの格言では、「将来、雛に孵って親鳥になる」という卵そのものも大切な意味を持っていることがわかります。カステラなどの卵製品ではその代わりになりません。また冷蔵庫で保管していてもいけません。運用で言えば、「収益を生むもの」でなければいけないのです。

現在の預金では金利が非常に低いために、収益を生むという視点では「卵が親鳥に孵る」までにあまりにも時間がかかりすぎます。もちろん預金の持つ流動性の高さは重要ですから必要な金融商品なのですが、資産運用としての金融資産としてはあまりに力が弱いといわざるを得ません。

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コラム著者

野尻哲史⽒
合同会社フィンウェル研究所代表