現役時代には資産運用を始めれば「継続することが大切です」とよく言われます。しかし退職した後はいつまで資産運用を継続すればいいのでしょうか。そんなことを考えてみたことはありますか。

自分は生涯”運用の現役”でいられるだろうか

海外では“資産運用を人生の終焉まで”として想定することが多いようです。退職時点から30年間といった長い期間にわたって運用資産から資金を取り崩す方法についての議論は、米国では90年代から行われています。退職時点で出来上がっている資産から毎年一定額を取り崩して生活費に充当すると想定したときに、例えば30年といった期間で資産が枯渇しない金額を統計的に算出する方法などが、90年代から実務面で議論され始めました。資産が生涯持続するという意味で「持続可能」なもので、その金額を退職時点の資産残高に対する「率」で算出するため、「持続可能な引出率」という言葉が使われています。

さらに米国で1994年に制度化されたプルーデント・インベスター法では、「被後見人の信託財産はリスクとリターンを考慮してポートフォリオとして保全しなければならない」とされています。ここでも生涯にわたって運用をするということが前提になっています。

いつまでも元気でいたいという思いは、誰しも共通でしょう。しかし、誰もが自分で95歳や100歳といった年齢まで運用を続けることは簡単ではないと思います。日本の成年後見制度では、米国と違って成年後見人は資産保全のためにすべての資産を預金にすることが求められています。その点で、認知・判断能力に支障が出てくると、途端に運用が難しくなってしまいます。

もちろん、認知、判断能力の低下にはグラデーションがあって、低下しているとは言え、資産運用をある程度続けることは可能な場合もあります。それでも他者の力を借りることが多くなるのは避けられません。もし、そこからまだ10年、20年といった長い人生があった場合に、資産の寿命を延ばす計画に大きな狂いが生じて生活を支える資金が不足する可能性も懸念されるのです。

2つのステージで退職後のお金との向き合い方を想定

それを避けるために、元気なうちにその準備をすることが必要になります。まずは、計画の当初から人生の最後半のことを切り分けて、計画を立てることを考えてみてください。例えば、退職後の生活ステージを2つに分ける方法です。生涯にわたって運用を続けるという前提を途中で諦めるのではなく、最初からある年齢になれば資産運用から完全撤退するという姿勢で、計画を立てておこうという考え方です。

具体的に想定してみましょう。前半のステージは、資産を運用しながら一部を引き出して生活費に充当する「使いながら運用する時代」です。生活のために資産を引き出すことは避けられませんが、自分がコントロールできる間は資産運用を続けるわけです。資金の一部を少しずつ売却することや、投資信託の分配金を充当することがひとつの方策です。健康に留意して、自分で資産運用をコントロールするこの期間を少しでも長くすることができれば、より豊かな生活に貢献できることになります。

運用することが難しくなる後半のステージに向けて、運用資産を徐々に減らしていって、最後は運用から完全に撤退します。ここからは「使うだけの時代」になります。このステージの切り替えの年齢は個人によって差がありますが、それを80歳とすれば前半が15年、後半が20年となります。後半のステージでは、もっぱら銀行預金や終身年金といった資金フローが確定できる資産を中核にすることになります。

第三者のアドバイスを活用する

その他には第三者の専門家の力を借りる方法も想定できます。米国、英国ともにそうしたことに対応してくれる金融アドバイザーが存在します。例えば、英国のIFA (Independent Financial Advisor、独立系金融アドバイザー)と呼ばれるアドバイザーは、全国で2万人以上いて、地域密着の形で資産運用アドバイスを行っています。

日本でも、そうしたアドバイザーが求められる時代になってきました。もちろん大切な資金の運用アドバイスを受けるわけですから、中立的な立場でサポートしてくれる人でなければなりません。英国では、「独立的(=IFAのI)」であるためには、①資産運用会社や保険会社から報酬を受け取らず顧客からのアドバイス・フィーだけで生業を立てていること、②提供する商品をあまねく市場から見つけること、が要件とされています。

残念ながら、日本では現行の制度上これは難しいことです。そのため、日本流の「独立系」は、制度ではなく、「顧客の側に立つ」という姿勢を取っているかどうかを指標にするしかありません。実はそれが非常に重要で、高齢者の負託にこたえられるような「顧客の側に立った」アドバイザーとはどんな人かをわれわれが知っておくことも大切なのです。2020年に金融庁が導入を決めた「重要情報シート」※1は投資家として知っておくべき重要な情報が記載されていますし、その土台となる「顧客本位の業務運営」の7原則※2も理解しておくといいでしょう。投資家も自身の将来を見据えて頼りになるアドバイザーを選ぶ時代になってきました。

出所:
※1: 金融庁、https://www.fsa.go.jp/news/r2/singi/20210512.html
※2: 金融庁、「顧客本位の業務運営に関する原則」 https://www.fsa.go.jp/news/r2/singi/20210115-1/02.pdf

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コラム著者

野尻哲史⽒
合同会社フィンウェル研究所代表