「資産形成」という言葉をよく聞くようになりました。しかし、正確にどんな意味だろうかと考えたことはありますか。「資産運用」とどこが違うのだろうか、と比較して考えてみると、「資産形成」の意味がよく分かってくると思います。

「資産形成」という言葉が使われるのは、例えば、「老後の生活を豊かにするために早いうちから資産形成に着手すべきだ」といったときです。これは資産を創り上げるという意味で使われていますが、この場合でも「そうか、早くから投資をすることが必要だということか」と理解することもありませんか。とすると、「資産形成」は「資産運用」と同じような意味ということも言えそうです。

「資産形成」は目的、「資産運用」は手段

しかし、「資産形成」と「資産運用」は全く違うものなのです。

それを具体的な例で考えてみましょう。例えば、現在30歳の人が、「65歳までに2000万円の資産を創り上げる」と決めたとします。そのために銀行預金に毎月5万円の積立貯蓄をすれば、金利0%でも65歳に2100万円が積み上げられる計算です。もし、「3000万円の資産を創り上げる」と計画した場合には、この方法では残念ながら達成できません。

しかし、年率3%で運用できる投資信託を使えば、毎月5万円の積立投資を続けると、65歳時点で積み上がる資産は3708万円弱になる計算で、「65歳で3000万円」という計画は達成できることになります。

ここで分かるのは、65歳までに3000万円の資産を創るといった計画は、「資産形成」という目的を指しています。そして、それを達成するのに使われるのが銀行預金であったり、株式であったり、投資信託であったりという金融手段なのです。「資産運用」は「資産形成」を達成する一つの手段だと考えると分かり易いでしょう。

「資産運用」が有効な「資産形成」とは

ちなみに「資産形成」には、教育資金、住宅資金、万一の備えの資金、退職後の生活資金など、いろいろなタイプがあります。なかでも、準備できる期間が長いものとか、資金を引き出すタイミングが読みやすい資産形成には、有価証券という手段が使い易いものといえます。「時間を味方につける」とよく聞きますが、ある程度の期間が読めることが「資産運用」の有効性を高めるからです。もちろん、「資産運用」ではより大きな資金を創り上げられる可能性が高くなりますから、目標金額が大きい「資産形成」の場合にも、「資産運用」を使うことが多くなります。

資産形成の各種タイプ

資産形成の各種タイプ

目的のリスクと手段のリスク

ところで、「資産形成」と「資産運用」の違いがわかると、もう一つ見えてくるのが「リスク」の意味です。「リスクとは何ですか?」と聞かれた時にどう答えるでしょうか。一般には、「収益率のばらつきで表すもの」、「標準偏差を使って数値化できる」といった回答が正解ですが、「資産形成」という目的を説明するときに、「リスクはバラつきの大きさ」で意味が通じるでしょうか。

先ほどの例で、30歳からの35年間で、毎月5万円の預金積立をした場合に、65歳で3000万円をつくるという「資産形成」の計画は、金利が0%なら、達成できない可能性は100%です。銀行預金という「手段」の持つリスクはほぼ0%ですが、3000万円を創るという「目的」のリスクは100%ということです。

逆に年率3%の収益率を想定した投資信託では、「手段」のリスクは5%くらいあるかもしれません(もっと大きいかも)。でも目標を達成できる可能性はある程度見込めます。例えば70%の可能性で残高が3000万円に届くと推計できれば、この資産形成という目的のリスクは30%です。

「手段」のリスクは期待収益率のばらつきで説明できますが、「目的」のリスクは未達成確率で示すことになります。リスクという言葉を「投資で損が出る可能性」と考えて質問をされる個人投資家の方も多くいらっしゃいます。これに対して、金融機関のアドバイザーは「そうではなくて、リスクはバラツキの大きさですよ」と答えることが多いのではないでしょうか。しかし、個人投資家の方のリスクに対する理解は、正確ではありませんが、目的の未達成確率という目線で考えると、それほど大きく外れてはいないように思います。

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コラム著者

野尻哲史⽒
合同会社フィンウェル研究所代表