本当に資産形成は必要なのだろうか?

多くの方が、金融機関のアドバイザーから「退職後の生活のために資産形成は必要です」といわれたことがあると思います。でも、本当に資産形成は必要なのでしょうか?

3年前、2019年6月に金融審議会市場ワーキング・グループが「高齢社会における資産形成・管理」と題する報告書を取りまとめました。その前段にあった記述から、マスコミが“年金だけでは老後の生活は不十分で、老後の資金として2000万円の資産を創り上げる必要があることを政府の研究会が認めた”と曲解して、年金危機を煽るような流れのなかで語られました。参議院選挙という季節性もあって、大きな話題になり、いわゆる「老後2000万円問題」として注目されました。マスコミによる街頭インタビューを受けた人のなかには、「お金がなくても幸せな暮らしはできるはずだ」とか、「お金が望みという生活は寂しい」といった反論もありましたね。しかし、今になってみると、「結果として、多くの人が老後の生活費を考えるきっかけになった」と評価する声もあります。

ライフサイクル仮説という経済の理論がありますが、これをもとにすると、現役時代の余剰所得を退職後の所得に移転させること(=老後の生活のための資産形成)は合理的な判断といえます。しかし、最近は所得そのものが少ないと感じる現役世代も多く、資産形成を行うだけのゆとりがないと感じる人もいます。資産形成をすることは、「現在の満足度を少し抑制しても将来の生活のための資産を作り上げること」ですから、それが「退職後の生活の満足度を高めることにつながる」ものでなければ、力が入らないものです。マスコミの街頭インタビューのように、お金がなくても退職後に幸せな生活を送ることができるのであれば、何も今の支出を犠牲にして資産形成をする必要もありません。

60代の生活全般の満足度は「少し満足できる」もの

そこで改めて退職後に資産があることは幸せにつながるのかという点を、退職世代である60代に聞いてみました。合同会社フィンウェル研究所では、2022年2月、60代6486人を対象に満足度に関するアンケート調査を行っています。60代のなかには、既に退職している人もいれば、まだ現役として働いている人もいますが、そのほとんどが退職を目前にしていることもあって、退職後の生活を意識しています。60代は、退職世代といっていい年代です。

退職世代としての60代が、生活全般の満足度を測るときに資産水準はどれくらい重要なのか、をアンケート結果から分析してみました。アンケートでは、生活全般の満足度、健康状態の満足度、仕事・やりがいの満足度、人間関係の満足度、そして資産水準の満足度の5つに関して、「満足できる」=5点、「どちらかといえば満足できる」=4点、「どちらでもない」=3点、「どちらかといえば満足できない」=2点、「満足できない」=1点の5段階で聞いています。

各満足度の平均値をグラフに示しましたが、生活全般の満足度は3.17点と真ん中より「どちらかといえば満足できる」に寄った結果となりました。健康状態、仕事・やりがい、人間関係の満足度もやはり平均値は3点を上回りました。しかし、残念ながら資産水準の満足度は2.80点と、「どちらといえば満足できない」寄りの結果に終わりました。意外に、60代は資産水準に厳しい目線を向けているようです。

60代の生活に関する満足度

60代の生活に関する満足度

資産額が多いほど生活全般の満足度が上がる

この結果をさらに深く分析しました。相関係数を計算して、生活全般の満足度に対する影響度の大きさの数値化をしてみました。その結果は、健康状態の満足度との相関係数は0.48、仕事・やりがいの満足度とは0.51、人間関係の満足度とは0.51、そして資産水準の満足度とは0.65でした。これらの数値は、どの満足度もその数値が高いほど、生活全般の満足度が高くなることを示していますが、そのなかでも最も影響度が大きかったのが資産水準の満足度でした。

退職世代の生活全般の満足度は、資産水準の満足度に大きく影響を受けることが数字で示されたわけです。さらに別の設問で聞いた「資産の金額水準」や「資産運用をしていること」の影響度も分析しましたが、その結果、「保有している資産額が大きくなるほど生活全般の満足度が高まり」、「資産運用をしている人ほど生活全般の満足度が高くなる」ことがわかりました。

改めて「なぜ資産運用をすべきなのか」。単に退職後の生活のためという味気の無いものではなく、退職後の生活の「満足度を高めるため」という、少し“輝きのあるもの”であるように思います。

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コラム著者

野尻哲史⽒
合同会社フィンウェル研究所代表